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zoom RSS 科学の世界へようこそ 高野文子「ドミトリーともきんす」

<<   作成日時 : 2014/10/07 00:46   >>

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私がブログを更新するスピードが衰えたのはガラケーの頃は通勤の電車内で思いついたことを書いてリアルタイムでアップしていたのが、スマホになってから使い勝手がわからなくなったこと、そして仕事上で機密事項の多い仕事に携わっていたので、その後遺症もあって自分の書いたものを露出することにナーバスになっていたことに起因する。またナーバスな内容の仕事をしている立場上、どうしても書く事ができないこともあった。

ただそれでも書くタイミングを逸してしまった重要なことが多かったのではないかという思いはいつも感じている。特に理化学研究所の小保方晴子さんとSTAP細胞をめぐる事件は真偽はどうであれ有望な科学者を失う結果になってしまったことが残念だと思う。仮にSTAP細胞というものが実在していると仮定しても、それを証明し、論文という形にするまでのプロセスに問題があったのだと思う。科学という未知の分野で実験や研究をするだけでも気が遠くなる作業だが、ただ何事においてもどんな状況でも継続し、証明し続ける必要はある。

このSTAP細胞をめぐる悲劇はユーモアとか遊びの欠如も一因のような気がするのだが、ここで私が言う「ユーモア」や「遊び」というのは怠けることではなく、科学以外のことに目を向ける視野の広さを意味する。アインシュタインやリチャード・ファインマンには常にユーモアや遊びがあったし、だからこそ彼らの文章は面白かったりする。

科学者の文章で美しいと感じたのは寺田寅彦の随筆である。寺田寅彦は夏目漱石とつき合いもあり、俳句もたしなみ、幅広い教養のある人だったが、身近な物理の事象を研ぎ澄まされた美しい言葉で解説していて、読んでいて発見もあり、文章が身体に染み込んでいく気がした。

寡作のマンガ家・高野文子が科学の本を「ヒンヤリしていて気持ちがいい」と評したことに共感したのは私が寺田寅彦の文章を読んだ時の印象にすごく近かったからである。

寡作ながらもその動向が常にマンガファンのみならず多くの人の関心を集める高野文子の待望の新作「ドミトリーともきんす」は日本が生んだ科学者・湯川秀樹、朝永振一郎、中谷宇吉郎、牧野富三郎の4人の科学者が同じ寮にいたらと仮定し、彼らのエッセイを題材に科学の世界を絵で表現しつつ、最終的に彼らが書いた著作へと誘おうとしている異色の本である。ちなみに中谷宇吉郎の恩師は寺田寅彦である。

ドミトリーともきんす
中央公論新社
高野 文子

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まず描線に無駄がなく、フォルムが見事で美しい。本当に頭の良い人というのは難しい事象を本質のみを捉えて簡潔に説明することができるのだが、高野文子という人もまた科学者の美しい文章を見事な技法によって視覚的に見えることが可能である。定評のあるトーン使いはもちろんのこと、空間を正確に捉えるデッサンの確かさによって雪の結晶や空間軸の捉え方、花が匂うしくみなど、科学者の思考の具現化を試みている。この本は1ページ1ページを噛み締めるかのように丁寧に眺めながら、科学の世界にじっくりと溶け込むように読むのがすごくふさわしい本である。そして非常に噛みごたえがあり、読めば読むほど知の世界の豊かさを実感できる。

最後の「詩の朗読」の章で科学者の発見を多くの人類と分かち合うことの意味を表した描写がこの本の真骨頂であり、正に現代のマンガ表現の最高峰とでも言うべきものである。今年はこの作品や山本美希さんの「ハウアーユー?」のような作品、さらに島田虎之介さんの「九月十月」というマンガの表現の可能性を示すような作品が発売を予定されていて、寡作の表現者の優れた作品を読むことができて幸せである。

何より朝永振一郎、中谷宇吉郎の2人は理化学研究所の先輩である。自殺された笹井芳樹氏は立派な業績はあったが、笹井氏がこの本を読んでいたらどのように感じただろうか。今となっては仮定の話でしかないし、そんな余裕もなく、精神的に追い詰められたから死を選んだのだろうけど、科学は先人の発見を継承し、さらに新しく塗り替え、次世代へ継承していくものである。だからこそ小保方女史にも読んでもらえたらと思ったりする。

追記
そんなことをブログに書いて一日も絶たなかったうちに小保方女史が早稲田の博士号の取り消しが発表されたり、その一方ノーベル物理学賞は青色LEDの開発の業績で名城大(名古屋市)の赤崎勇・終身教授、名古屋大の天野浩教授、米カリフォルニア大サンタバーバラ校の中村修二教授の3氏が受賞した。赤崎氏は松下電器の研究者から大学に戻った経験があり、中村氏に関しては田中耕一さんが受賞した時に一企業の研究者で、省エネルギーを促し、社会・生活に役立つ発明をした研究者の受賞なので同じ物理学賞でも科学のニュアンスは違うかもしれないが、ただ科学の知識は一人の研究者によってなされるのではなく、次の世代に継続されてつながっていくものだという点では正に「ともきんす」の最後の湯川秀樹のエッセイの言わんとしていることである。

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高野文子による科学(?)マンガ。 架空の学生寮「ともきんす」に入居する学生たちの暮らしを通して、科学者5人(朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹、ジョージ・ガモ ... ...続きを見る
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